2012年9月14日金曜日

プリズンホテル1 夏ドッグイヤー

「見てよ、かあさん。三十年間、一日もズルしてないんだ」
「知らないよ……そんなこと」
 どさりと投げ出されたファックス用紙の上に、母は膝から崩れた。とまどう表情を見ながらぼくは、もしかしたらこのことだけが夢だったのだろうかと考えた。

「別れるとき、最後に言ったじゃないか ― ―そうだいいことがある、おまえ毎日、日記をつけな、って。いつかかあさんがそれを読めば、おまえが毎日なにをして遊んだか、何を食べたか、どうやって大きくなったか、すっかりわかるように。いいかい、一日もかかさずにだよ、って ― ―そう言ったじゃないか。とぼけるなよ。ほら、読んでくれ。ぼくはかあさんに捨てられてから、こうやって大きくなったんだぞ。さあ、読めよ。最初からぜんぶ」
 仲オジがぼくを羽交がいじめに抱きかかえた。
「わかったよ、孝ちゃん。もういい、わかった」
「わかるもんか。わかってたまるかよ。読めよ。声出して読め。そうだ、そのへんてこな字はな、小学校四年のとき自転車でコケて右手を折って、泣きながら左手で書いたんだぞ。こっちのやつはな、自衛隊の演習中に、塹壕の中で慄えながら書いたんだ。熱出したって、酔っ払ったって、女にフラれたその晩にだって、ちゃんと書いたんだぞ」
p295-296より

【プリズンホテル2 秋】を読了後、(はて? 1はどんなストーリーだったっけ?)。
面白く読めたことだけは覚えていた。そんなわけで1をパラパラと読み、あらすじを思い出す。
1より2の方が面白いやんけ! 普通、2の方がつまらんというのが世間相場なのに。

1ヶ所だけページが折り曲げられていた。

夢が現実になるのではなく記憶となるに関連している。

突如、駆け落ちした主人公の母が、彼と「毎日、日記をつけな」と約束するはずもない。
夢が体験記憶になったのだろう。

哀しいほどの片思い。。。信仰の世界でも通じるところがあるな。母を神に置き換えて。

毎日、祈って祈って、そして祈って。それでも解決されず道が示されず教会を去った姉妹がいた。
信徒のだれもが神に愛されているのではない、見捨てられたと思うことがある。
それでも主を愛す。片思い。
教会を去った時の彼女の叫びは主人公のような叫びだったのか。

0 件のコメント:

コメントを投稿